再認定は「条件付き」 岐路に立つ「南アジオパーク」
中央構造線が地表に現れた溝口露頭を見学するツアー=2014年7月
貴重な地質や地形を持つ自然公園「日本ジオパーク」に認定され、伊那市、飯田市、下伊那郡大鹿村、富士見町にまたがる「南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク」が、岐路に立たされている。認定機関である日本ジオパーク委員会(JGC)による再認定審査で「条件付き再認定」とされ、2年後に再審査を受けることになった。しかし、JGCなどが求める改善策は人員の増強など「大変困難な課題」(関係者)が多く、早期の対応は難しいといい、今後、認定継続の可否を含めて検討していく方針だ。
■人員の増強「困難な課題」
「近年は審査の色合いが変わってきたのではないかという認識を持っている」。 審査結果を報告した4日の伊那市議会全員協議会。4市町村の行政や観光団体などでつくる「南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク協議会」の事務局を務める同市の竹村和弘商工観光部長は困惑を隠さなかった。
協議会は認定地域などでつくるNPO法人日本ジオパークネットワーク(JGN)に加盟。4年に1度、再認定審査がある。
事務局によると、今回の主な指摘事項は 1、事務局体制の強化 2、基本計画と事業計画の改善 3、ジオサイト分杭峠(伊那市長谷)におけるジオパークの理念にそぐわない観光継続の問題 4、ジオサイト設定方法の再整理と学術的価値の再確認 5、ジオパークとユネスコエコパークそれぞれの特質を活かした活動 6、変動の激しい地域の土砂災害や河川防災に関する教育・啓発活動の検討-の6項目。
特に、事務局体制については、専任の職員は実質伊那市の2人のみで、マンパワーの不足が指摘された。JGNが求める高い水準の学術的活動などを行うためには事務局職員や専門員の充実、協議会予算の大幅な増強が必要になるが、「自治体の人員削減、厳しい財政状況の中で大きな負担を強いることになり、大変困難」(事務局)という。
■学術面を重視する指摘多く
また、ジオサイトについては、非地学的サイトであるダムや公園、廃校まで設定し、地球科学的価値があるサイトが不明確とされ、選定根拠となる科学的論文のリストの整理や学術文献の収集と活用、それに基づく各保全計画の策定が必要とされた。これに関しても事務局は「人的な課題が大きい」とした。
さらに、分杭峠についても注文が付いた。「地球科学的裏付けの取れない内容を掲げた観光が継続されている」と問題視。「来訪者に間違った地球科学的な伝達がされたり、ジオパーク全体のブランド力に悪影響が出たりしないよう早急に改善策を講じるべき」とされた。
分杭峠は「ゼロ磁場」と呼ばれるパワースポットとして知られる。事務局は「近年は観光でも”ゼロ磁場”という呼称は使用していない」としているが、観光素材の一つであり、早期の改善は困難との認識を示した。
「ジオパークはもともと世界自然遺産への取り組みの一つとして認定を受けた。どちらかと言えばジオサイトを中心とした地域振興、観光振興を含めて取り組んできた経過がある」と竹村部長。しかし、今回の審査では学術面を重視する指摘が多く、自治体側の思惑との相違が浮き彫りになる形となった。
議員からは「このままの形で続けるのは難しいのではないか」「認定のメリットはあるのか」などの意見も出された。事務局は「できること、できないことを整理し、相手方と協議していきたい」としつつ、「このエリアにはユネスコエコパークもある。そちらへの移行もあるだろう」との考えも示し、認定継続の可否を含めて検討していく方針を明らかにした。
過去には「茨城県北ジオパーク」が再審査を通らず認定を取り消されたほか、熊本県の「天草ジオパーク」が退会した例があるという。
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