受け入れに向けて調理道具などを手入れする御子柴勝久さん

長野県の伊那市観光協会は、都市部や海外の旅行客に宿泊施設や農業体験を提供する農家民泊と観桜期の花見を組み合わせた新たなツアー「ぐるりさくら旅」を企画した。４月１日と４日の各１泊２日で、郷土食作りや高遠城址公園をはじめ市内の桜見物を織り込んだ。民泊を活用して市内の滞留を促し、地域の魅力発信につなげたい考えだ。

同協会は市内の宿泊施設が少ない課題を解消しつつ、高遠城址公園の観桜客が市内にとどまって観光などを続けられる取り組みを模索。コロナ禍に対する社会対応が変化して農家民泊の再開が進んできたことを踏まえ、民泊を活用した滞在型観光施策として今回のツアーを企画した。

当日のモデルプランによると、初日は高遠城址公園の桜散策や温泉に出掛け、夕食は受け入れ家庭と一緒に郷土料理などを作る。夜には夜桜見学も予定。翌日には宿泊先近隣の桜スポットを見に出掛ける。食事も自分たちで作る。 　夜桜見学は、地元の公共交通機関の運行が夜間まで十分に無いことから同機関を使う観桜客が訪れにくかった課題の解消を図る。ほかにも希望により市の桜守らによる桜ガイドも設定できる。桜以外にも小水力発電など農業資源の案内も予定する。

料金は１万７０００円で、桜ガイド付きの場合は１万９０００円（いずれも税込み、宿泊費や高遠城址公園入園料、保険加入費用など含む）。定員は各回先着５組。

同協会は「高遠の桜を含め市全体を知ってもらうことで伊那谷に来るリピーターが増えてほしい」としている。

締め切りは１０日まで。桜が散り終わった場合は取り止めとし、キャンセル料は不要。催行は２５日に決定する。問い合わせは、同協会（電話０２６５・９６・８１００）へ。

◇コロナ禍で受け入れ中断　農家も期待

同協会の農家民泊はコロナ禍で中断していたが、昨年１月に再開した。現在の農家民泊の数は約７０家庭（今年度末までの登録見込み含む）。同協会は「ぐるりさくら旅」を新たなツアー開拓に位置付けると共に、各農家がこだわりのもてなしを提供できることを期待している。

受け入れを楽しみにしている家庭の一つが、同市御園の御子柴勝久さん（７０）、夏枝さん（６８）夫妻だ。桜と共に残雪のアルプスなど伊那谷の風景を観賞したり、地元料理のソースカツ丼を一緒に作ったりなどの企画を構想していて「自然の中で暮らす楽しさをアピールできたら」と話している。

御子柴さんの民泊用の農家名は「河原小路」。２０１７年から始め、これまで小中学生ら子どもから大人まで多様な年齢層を受け入れ、台湾や中国の外国人旅行者もいた。「新しい人が来てくれるのは生活の励みになる」とし、「笑顔を忘れず、できるだけ早く打ち解け合えるように」と心掛けている。

コロナ禍の中断を機に農家民泊に対する自身の思いの強さを再認識。再開時はブランクによる緊張もあったが「また張り合いができて楽しみという思い」と期待を語る。

御子柴さんは、市内などで自家用車やツアー客以外の人は移動手段が限られてしまう課題に触れ、今回のツアーを市内での宿泊や移動手段の確保の面から高く評価する。伊那谷地域の農家民泊について「グローバルな形で盛り上がって発信され、将来的にどんどん人が来てほしい」と話している。