愛知の和太鼓職人が桶胴製造
美しく仕上がった桶胴太鼓を前に、笑顔を見せる三浦さん(左)と祐子さん(能代市住吉町の五十嵐桶樽製作所で)
秋田杉桶樽(おけたる)の伝統工芸士だった故・五十嵐修さん=能代市住吉町=の和太鼓(桶胴)作りの技術にほれ込んだ愛知県岡崎市の和太鼓職人、三浦和也さん(39)=三浦太鼓店・6代目彌市=が職人技の継承に励んでいる。五十嵐さんの妻祐子さん(63)の助言を受けて製造に挑戦、能代の職人技が引き継がれた和太鼓が国内外に広く販売されている。
五十嵐さんは、五十嵐桶樽製作所の2代目だった。初代の父富吉さんの下で修業し、秋田杉桶樽の伝統工芸士に認定された。寿司(すし)桶や漬物樽などの製造に力を注いだが、56歳のころに前立腺がんが見つかった。10年以上、闘病しながら製品を作り続け、平成28年9月に67歳で亡くなった。
祐子さんによると、プラスチック製品の普及などによる需要減を受け、晩年に手掛けた製品は工芸品としての桶樽や、製造技術を生かした和太鼓の胴体部分(桶胴)が中心だったという。
その桶胴を納品していたのが三浦太鼓店だった。江戸時代末期の1865年に創業した老舗。全国各地の祭りなどに使われる太鼓の製造、修理を担っている。近年は和太鼓の人気が高まり、打楽器として国内外の演奏グループから引き合いがあるという。今月13日に横浜国際総合競技場で行われたラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦で、選手入場を盛り上げた和太鼓演奏にも同店の製品が使われた。
三浦さんは、五十嵐さんの太鼓について「生きた音がする。人の心に届くものがある」と表現する。和太鼓需要の高まりを受け、外注だった桶胴の製作に挑戦することを決意。平成27年に五十嵐さんを訪れ、師事を願い入れた。能代に住んで修業する覚悟だったが、受け入れてはもらえなかった。
当時、五十嵐さんの病状は思わしくなかった。祐子さんは「三浦さんの申し入れをうれしく思っていたはず。でも、体のことを考えれば、最後まで責任を持って教えられないかもしれない。中途半端なことはできないと考えたのだと思う」と話す。
五十嵐さんの死後、祐子さんの心境に変化があった。太鼓に懸ける三浦さんの真摯(しんし)な姿勢に「お父さんの仕事を近くで見続け、手伝いもしてきた私になら、伝えられることがあるかもしれない」と考えるようになったという。
亡くなってから約9カ月後の平成29年6月、三浦さんは再度、祐子さんの下を訪れ、五十嵐さんが使っていた道具と、残された秋田杉を使い3日間にわたって桶胴を作った。材料選びや製造工程で気を配るべきことなど、祐子さんが助言する関係は今も続いている。
岡崎市にある三浦さんの工房には、五十嵐さんの手による桶胴が一つ、大切に残されている。「なくてはならないお手本。経験を積むごとに新たな発見を与えてくれる」。使っていたかんななど、道具を譲り受け、技術継承の決意を固めている。
三浦さんは20日まで2日間、材料の秋田杉原木の買い付けで来県し、祐子さん宅を訪問。助言を受けながら作った桶胴の一つを持参した。美しい曲面に仕上がった桶胴を目にした祐子さんは「お父さんが作ったものと見間違うくらい。ものづくりに真剣に向き合う思いを、真っすぐに引き継いでくれていることがうれしい。お父さんも喜んでいるはず」と笑顔を見せた。
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