緊急事態宣言解除の中県内医療体制の在り方 中目千之県医師会長に聞く
新型コロナウイルス感染拡大に伴い4月16日に全都道府県に出された緊急事態宣言は今月14日、山形県を含む39県で解除された。しかし、専門家からは第2波、第3波の襲来が指摘される。新型コロナに対し、われわれはどのように備え、心掛ければよいのか、県内の医療体制の在り方とともに、県医師会の中目千之会長に聞いた。
―山形県を含む39県の緊急事態宣言が5月14日に解除された。日本医師会理事の立場も踏まえ、感染症拡大防止に向けた大型連休を挟んでの宣言をどのように評価するか。
中目 医療関係者の立場からすると、流行地の東京都や首都圏、大阪府など7都府県への宣言(4月7日)は、国として初めてのことであったにしてもタイミング的には遅いと感じた。ただ、4月16日に全都道府県に宣言を広げ不要不急の外出や県外への移動の自粛を拡大させたことは、県境をまたいで移動する人の流れを抑制する意味で一定の効果があった。県内のケースで見れば、県境をブロックすれば感染者がほぼ発生しないという状況になり、宣言を全国に広げたことは良かったと評価している。
―県内で初めて感染者が公表された3月31日以降、これまでの感染状況をどのように見ているか。
中目 県内で感染が確認された69例(5月18日現在)のうち感染経路が不明なのは5例にとどまる。感染が広まった例のほとんどが東京や仙台といった県外からウイルスが持ち込まれたケースであり、これが県内の特徴だ。最近は新規感染の確認がなく、落ち着いた状況にある。県外から持ち込まれない限り、新規の感染者はほとんど出ないだろう。
―県がこれまで実施してきた感染予防対策についてどう評価するか。
中目 東北地方で見れば、山形県のPCR検査件数は宮城県と並んで多く、人口10万人当たりの感染確認数は最も多い。これは、濃厚接触者を丁寧に追って、無症状の人でも検査を行い感染者を探し出してきたという結果であり、感染拡大を抑制する効果があった。さらにクラスター(感染者集団)対策を徹底したことも評価できる。多くの人の協力が得られた県境での検温実施では、高熱の人はいなかったものの、県をまたぐ移動を自粛するといった啓発の意味でも良かったのでは。他県でも取り入れるところがあった。
―県内の現状について、中目会長は「第1波は収束の入り口にあるが、第2波、第3波に備えなければならない」と指摘している。
中目 第2波、第3波の流行が来ることを前提に備えを急がなければならない。次の波はお盆と夏休みが重なり人の移動が多くなる8月ごろと見込まれるが、一般的な他の6種類のコロナウイルスと同じく新型コロナも夏はあまり活発化しないという見方もあり、8月ごろの波は小さいと思う。
課題は冬だ。冬になれば、新型コロナに加えて、通常の風邪やインフルエンザがまん延する可能性があり、警戒が必要だ。大量に来る患者をどのように診断して検査し治療に結び付けるか、または隔離するかといった体制づくりが求められる。特設テント方式で検体を集中的に採取するPCRセンターの整備など、早急に冬場の流行に対応する体制を整える必要がある。
PCR検査は山形市にある県衛生研究所だけでは無理があり、県は測定機器を庄内に1カ所、内陸にさらに2カ所配置する。イメージとして庄内地域で言えば、鶴岡地区医師会、酒田地区医師会それぞれがテント式のPCRセンターを設け、採取した検体を庄内に配置される測定機器で検査する。庄内地域で全て完結できるようにしていく。
―感染拡大防止に向け、県内の医療機関の連携が重要になる。
中目 懸念されるのは、冬場の医療体制だ。特にかかりつけ医が休みになる年末年始の休日夜間診療所の運営だ。通常の風邪やインフルエンザ、新型コロナと熱のある患者を休日夜間診療所で全て診断できるのかという大きな課題がある。医療スタッフの感染防御のため、ガウンなど必要な医療用資器材を十分確保しなければならない上、マンパワーの問題もある。診察に当たる医師の高齢化もある。こうした状況で、発熱患者にどのように対応していくかだ。
県内のほとんどの休日夜間診療所は市町村が運営しているので、行政と各地区の医師会、基幹病院が一体となり、感染が落ち着いている今の段階から話し合い、どのような形にするか決めていかなければならない。PCR検査で陽性か陰性かを確定する前段で、スクリーニングのようにいわばふるいにかける抗原検査を実施するなどさまざまな検査方法が開発されつつあり、大混乱を引き起こさないため患者をどう誘導するかといった一つの手順が、厚生労働省から示されると思う。基幹病院に発熱患者が集中しないような医療体制を、地区ごとに具体的に検討しなければならない。
―県民の不安解消には重症化への対応も求められる。
中目 感染症指定医療機関で受け入れるベッド数を増やす計画は進められている。県は先月、病院間の円滑な受け入れ調整などを行うため、「新型コロナウイルス感染症患者受入調整本部」を立ち上げ、第1回会合を開いた。指定医療機関同士のネットワークで受け入れの調整を行うが、今後は、この調整本部の役割がさらに重要になってくる。ただし患者の移送の課題もあり、可能であれば庄内は、庄内医療圏でまとまるのが望ましいと考えている。
―ワクチン開発が各国で進んでいる。現状をどのように見ているか。
中目 新型コロナに有効なワクチンができるまでは、臨床試験などを含めると1年半ぐらいかかるという見方が多い。副作用が少なく、推奨できるワクチンができるようになるには、やはりそのぐらいの時間はかかるのではないか。来年の冬に向けて、大きな感染の波が来ないようにするという形になるのではないかと、個人的には思っている。
有効なワクチンが開発されるまでは、ある程度周期的に感染の波が来るということを前提に物事を考えなければならない。感染が落ち着いて収束している時期は経済を回し、また流行し始めたら外出や移動を自粛する生活をする。こうしたことを一人一人が認識しないといけないし、当面はこれが社会のベースになることを認識していかなければならない。
有効なワクチンが開発され、診断も迅速にでき、早期に投薬すれば重症化は防げる。このようになって初めて、インフルエンザ並みの対応になってくるだろうし、新型コロナウイルスと人間社会の共存・共生ということになってくる。
―新型コロナとの闘いは、長期戦になる。われわれはどのように生活していくべきか。
中目 感染拡大を防ぐため、政府の専門家会議が示した「新しい生活様式」が、これからは通常の生活様式になるだろう。これまでとはかなり違う社会に遭遇する覚悟と準備が一人一人に必要になってくる。また感染が拡大したら、県境をまたいだ不用意な外出は控えることなどを常に意識した生活になる。
それは一般的な生活に限らず、企業にとっても「新しいビジネス様式」に転換していかなければならないということ。緩やかに進んできたテレワークなどオンライン社会が一気に進むことになるだろう。企業活動、生活の全般において、発想の転換が必要な時期に来ていると思っている。
医療面で言えばこれからは、熱が出ればインフルエンザではなく、まずは新型コロナウイルスの感染を疑うということが必要だ。医療側からも繰り返し、発信していきたい。
中目 千之氏(なかのめ・ちゆき) 鶴岡市出身。東北大医学部卒。1984(昭和59)年に鶴岡市昭和町に中目内科胃腸科病院を開業。鶴岡地区医師会長、県医師会副会長など歴任し、2018年に県医師会長就任。日本医師会理事も務める。新型コロナウイルスに関する県の医療専門家会議委員。72歳。

中目 千之氏
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