インタビューに応じる鎌田實さん
新型コロナウイルスとの闘いが続いている。命と健康を守るために大事なことは何か。ウイルスとどう向き合えばいいのか。医療現場の課題は。作家で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さん(72)=茅野市=に聞いた。
新型コロナウイルスは目に見えません。見えないから不安が起きる。「不安の感染」が広がると、過激な批判や差別を引き起こします。ハンセン病やHIVといった病気でも差別があった。不安と差別が広がらないようにしなければいけません。
手洗いや換気と同時に、免疫力を高めることが大切です。免疫には「獲得免疫」と「自然免疫」がある。獲得免疫というのが頼りになる免疫。新型コロナウイルスに打ち勝つには、ワクチンができて抗体ができることが必要ですが、1~2年かかってしまう可能性があります。
僕たちにできることは、自然免疫を少しでも高めていくことです。自然免疫は体の中をパトロールしていて病原体が入ってくると捕まえて食べてしまう。微力だけれど予防の役に立っている。
そのためにどうしたらいいか。笑っていた方がナチュラルキラー細胞(自然免疫の主要因子)を増やすことが分かっている。例えば、陽性になった人をネット上で見つけ出して批判するのではなく、社会を守るために隔離してくれていると考える。批判やレッテルを貼ることではなく、その人も被害者だと考え、ポジティブに考えることが免疫力を上げていくのです。
免疫の中枢は腸です。さまざまな野菜を少しずつしっかり食べて、発酵したものを食べるようにしましょう。自宅にいる時間が長くなってきているから、フレイル(虚弱)や認知機能の低下も心配です。家の中で体を動かし、笑い、電話やSNSを利用して友達と連絡を取り合うことが、コロナと闘っていく上では大事になります。
家の中で太陽に当たらなくなると、サーカディアン・リズム(体内時計)も狂いやすくなります。1日1回は外に出て散歩することも大切です。その際、友達と会っても長い会話はしない、2メートルの距離を保つソーシャル・ディスタンスに努めてください。
医療者はみんな、感染するリスクを抱えています。もちろん逃げずに僕たちはやりますが、ある地域ではお昼に立ち上がって医療者に拍手をしたり、歌手が医療者をねぎらう歌を作ったり、ブルーライトで感謝の気持ちを伝えたりしている。そんなことが出てくるとうれしいですね。自分自身が温かくなることが「コロナの時代」には必要です。
政府のやり方に対して思うことは、PCR検査をしないと医療者を守れなくなるということ。PCR検査の体制をつくることと、安心して隔離をする場所をつくることがとても大事です。医療崩壊を防ぎ、地域を守るには、医師や看護師、医療に携わる職種の人たちを守るマスクやフェースシールド、ガウン(防護服)をきちんと用意すべきです。病院は今、手術を減らすなど収益を少し落として、感染拡大時に対応する体制づくりをしている。政府は物品だけじゃなく、収入の支援もしてくれないと、地域の医療はさらに厳しくなる。政府は何をすべきか、病院や医師会は連携してどういう風に役割を担うのかを、もう一度、考える必要があると思います。
合言葉は「ビヨンド・コロナ(コロナを超えて)」。コロナの自粛中にフレイルや肥満になる人が出てくる。自分の健康に注意していくことが大切です。うれしかったのは、諏訪中央病院の玉井道裕先生が作った「新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書」が新聞に大々的に載ったこと。分かりやすい形で健康の教養を高める活動を諏訪中央病院は何十年も続けてきた。病院と住民が一体となってコロナと闘い、コロナに負けない地域をつくっていくことが問われている。諏訪中央病院には日本中から人材が集まっている。ものすごく大きな力になると思う。
WHOのデータだと、コロナの致死率は、高血圧の人が8・4%、糖尿病の人は9・2%。コロナが流行している今だからこそ、少しでも血圧を下げておくことが大切です。そのためには軽い運動、野菜を食べる、減塩。みんなで取り組み、全力投球した歴史が諏訪地域にはある。コロナが終わった後の健康長寿につなげるためにも、もう一度、血圧と血糖値を上げないことに目を向けてほしいと思います。
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