突風探知のドップラーレーダー
JR東日本(本社・東京都)は、2017年12月から突風を探知し運転規制に運用している酒田市黒森の「ドップラーレーダー」について、11月1日から観測と運転規制の範囲をこれまでの半径約30㌔から同約60㌔に拡大する。
ドップラーレーダーを使った現在の規制範囲と拡大後の範囲=JRの広報資料より
庄内地方では05年12月、庄内町榎木のJR羽越本線で特急いなほ14号が突風にあおられて転覆・脱線し、乗客5人が死亡、乗客・乗員33人がけがをする事故が発生した。ドップラーレーダーはその対策として気象庁気象研究所と共同で研究を始め、当初は07年1月に同町の余目駅に観測範囲が半径約30㌔のものを設置。16年11月にはこれに代え、同約60㌔のものを黒森に設置し、17年12月から半径約30㌔で列車運転規制に運用を始めた。今回は、観測の評価結果を踏まえ、観測・規制の範囲をレーダーの能力いっぱいに拡大する。 運転規制の範囲は、羽越本線はこれまでの五十川(鶴岡市)―女鹿(遊佐町)間から「今川(新潟県村上市)―西目(秋田県由利本荘市)間」に拡大される。陸羽西線についてはこれまで通り、「余目(庄内町)―清川(同)間」と変更はない。「清川以東の最上川峡谷は気象が複雑で、現段階ではドップラーレーダーによる観測が難しいため」(JR東日本広報部報道グループ)という。
酒田市黒森に設置されているドップラーレーダー
同社によると、黒森のドップラーレーダーの運用を開始した17年12月以降、同レーダーを用いた運転規制は、17年度は53回(16日)、18年度は21回(14日)あった。計74回の規制のうち46回(約62%)で実際に突風が発生しており、「かなりの精度で予測できている」(同)とみている。
同社では現在、このシステムを他地域にも導入することを検討しているほか、AI(人工知能)を使った突風探知技術の開発に取り組んでいる。他地域としては、他の日本海沿岸や首都圏などを想定しているが、突風が発生しやすいのは日本海沿岸は冬季、首都圏は夏季など特性が異なるため、単に同じものを設置すればよいものではないという。また、AIについては、過去の観測データを学習させ、突風をもたらす「風の渦」を判別する精度を高めることを目指しているという。
同社報道グループでは「安全第一であり、今回の観測・規制の範囲拡大は規制の頻度が減ることには直結しない。しかし今後、精度がより高まることで、不要な規制が減っていく可能性はある」としている。
ドップラーレーダーは、上空に音波を発し、水蒸気などに反射して返ってくる音波を分析し、風を観測するもの。JRと気象研究所ではこれを使い、近づく風と遠ざかる風のペアを「風の渦」として捉え、突風(藤田スケールで毎秒33―49㍍のF1以上)をもたらす可能性のある渦を探知し、その強さや移動速度、渦がもたらす最大風速・予測進路などを算出する技術を確立した。
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