
自身の食へのこだわりを生かした総菜を提供している久保田さん
高齢や病気・けがなどで自炊や買い物に難儀を抱えている人たちへ、手作りの「おかず」を提供するビジネスを、たった1畳の厨房で始めた能代市の女性がいる。完全予約制のテークアウト方式で、屋号は開業の7月にちなみ「壽來(じゅらい)」。「食は生きる基本。少しでもバランスの取れた食事をし、元気になってほしい」と、こだわりの食材を使った総菜セットを食卓へ届ける。
「壽來」を自宅の離れに開業したのは、同市東町の久保田朋子さん(61)。アトリオン音楽ホール(秋田市)の専属奏者も務めたオルガニストの久保田さんだが、料理も得意。音大時代に「安い食材でも、手を掛ければおいしいものができる」と独学で技術を鍛え、40歳の病気を機に一層、食にこだわるように。友人らと環境改善技術を提供する会社を愛媛県で設立、農薬や肥料、除草剤を使わない環境再生型自然農法の普及に携わっている。
数年前に生活拠点を古里能代に移した。高齢の母が90代でひとり暮らしの自分の兄へおかずを届けており、「こういうのを必要としている人って、いるよな。料理で地域貢献できないか」と思っていた。「要介護認定が下りるかどうかぎりぎりの人には支援がない」との問題意識が一致した4人で買い物、食事といった高齢者の日常生活を有料で手助けする「暮らしのサポート・カルテット」を発足。折しも離れのトイレ水洗化の話が持ち上がり、併せて1畳の納戸を厨房に改装し、飲食店営業の営業許可も取得。昨年7月、「食事」部門を担う壽來が誕生した。
「長生きするための食事ではなく、健康でぽっくりいきましょう、というのが私のスローガン」と明るく笑い、自身の食へのこだわりを生かし、愛媛から送ってもらう自然農法で育てた旬の野菜やコメ、無農薬の野菜などを食材とし、塩や砂糖はミネラル分の多いものにするなど調味料も厳選。添加物は避け、冷凍食品や加工品は使わない。
食中毒防止も考慮し「あえての食べ切りサイズ」で、6品セットとし、年金生活者が買えるよう価格は500円に設定。ある日の献立はヘルシー酢豚、ブリ大根、豆苗ののり巻き、エビマヨ、リンゴのキャラメリゼ、サケのかす汁。タンパク質と野菜を多めにし、市が養成した食生活改善推進員1期生として塩分控えめも心掛ける。
開業から約半年、定期的に利用する客は十数人いる。口コミと、自宅のすぐ近くでサロンを開くチームオレンジ「遊」(櫻田美穂代表)との連携で徐々に利用者が増えた。極小厨房で1人での調理のため食数に限りがあるが、月平均70~80食を提供する。「数が多ければいい、ではなく、人とのつながりを大事にしながらのビジネス。お年寄りを元気にすることが私の役目」と話し、生きる上で欠かせない「食べること」をサポートする。
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