JAXA能代ロケット実験場の拡張予定地（能代市浅内で）

　宇宙航空研究開発機構（JAXA）が、次世代の脱炭素燃料として有力な水素研究を適切な環境で行える国内随一の施設である能代ロケット実験場（能代市浅内）の拡張を計画していることが分かった。既存の施設では、安全距離の問題から大規模な試験への対応が困難なため、南へ2・5㌔離れた海岸に液化水素の大型タンクや試験設備、耐爆計測室などを整備する方針。事業費は約10億円を見込み、来年3月着工、7年1月の操業開始を目指す。

　能代ロケット実験場は昭和37年に開所して以来、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる各種ロケットの地上燃焼試験を続けている。平成29年ごろからは、水素の民間事業者が計画する開発試験への技術協力を求められ、新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）の委託事業も増加。今年度以降も、大規模な水素サプライチェーン（供給網）の構築に向けたNEDOの技術開発事業を委託された事業者や機器メーカーから試験と技術支援を要請されている。
　水素社会構築に向けたNEDOの実証では、事業採択された東京大学や高圧ガス保安協会など複数の産学の事業者が試験設備の整備と試験の実施をJAXAに要望。巨大地震を想定し、大型貯槽から液化水素が大量に漏れて広がったり、火災が発生したりする事故のシミュレーション手法の開発と関連設備の設置基準を整備する大型プロジェクトで、燃料電池車（FCV）に水素を供給する水素ステーションの安全評価試験を実施した能代実験場に要望があった。
　現在の実験場は、さらに大規模で多様な水素試験に対応するには余剰スペースがないため拡張が必要。そのため、南方2・5㌔の同市浅内の土地（三種町有地）を最大3万平方㍍借りて新たな敷地を確保する。
　拡張用地では液体水素の大型タンクをはじめ、水素の漏えい・拡散燃焼試験設備、防消火・保安設備、耐爆計測室を備え、さまざまな大規模機器試験に対応する。水素の貯蔵能力は50立方㍍を想定し、現在使用している貯蔵施設の容量30立方㍍を上回る規模となる。
　拡張予定地は砂防林がある砂地で、地盤改良や整地、保安林の解除が必要。大規模試験が行えるよう民家からの安全距離1㌔を確保する。年内に砂防林の伐採申請を行って業者を決め、6年3月の着工、7年1月の操業開始を目指す。
　JAXAは、実験場を宇宙向けと地上向けの両面で共用し、全国の事業者の拠点となる施設として発展させる方針を示している。小林弘明所長（宇宙科学研究所教授）は「能代実験場に国内外から多数の企業、大学、研究機関が参集し、さまざまな実験を行うことでJAXAの価値向上のみならずエネルギー、宇宙のまち能代のプレゼンスを高め、関連人口、雇用の創出が期待される」と話している。
　政府は脱炭素に向け、燃やしても二酸化炭素（CO2）を出さない水素を、石油やLNG（液化天然ガス）に替わるエネルギーとして普及させることを目指す。水素の導入量を増やす目的で今年4月に改定した基本戦略によると、大規模な水素貯槽の安全性を7年度までに検討し、指針案を制定する。これに合わせ、NEDO事業の評価試験を6年度末までに行う必要があるという。
　能代実験場では昨年度、JAXAの実験をはじめ大学共同利用、大学以外との共同研究などの試験が延べで約450日間行われ、過去最多の実績となった。今年度もハイペースで増えており、最多を更新する見込み。